信義誠実の原則(信義則)

それじゃ、民法の一般条項の中でも、特にお世話になる機会の多い、信義誠実の原則(信義則)について勉強しましょ。

信義誠実の原則、略して信義則は、全然当たり前のことを言っているだけなの。

信義則の定義を見てみると・・・
信義則とは、権利の行使や義務の履行においては、お互いに、一般に期待される信頼を裏切ることのないように、誠意をもって行動すべきこと』をいう、ってされているものなのね。

例えば、この前の勉強の際に、ナカちゃんが私たちとの判例再現で疲れて倒れちゃったじゃない。
一緒に勉強してて、倒れちゃった人が目の前にいるなら、それをそのままにして置き去りにするなんてことは、一般的にはしないわよね。

介護するなり、救急車を呼ぶなり、適切な対応をとることが期待されるわ。そんな当たり前の期待を裏切らずに行動すべきことを、条文にしたものが、この信義則なのよ。

まずは、六法で民法1条2項をひいてみて。
昨日は、いきなり倒れて、すみませんでした。
私、身体が弱いので、ちょっとしたことで、すぐ倒れてしまうもので・・・。
あ、でも、そのままにしといて下さっても大丈夫なんです。
倒れるとリセットされちゃうのか、実は、その後は平気だったりするんです・・・。

あわわ。
六法をひくんでしたね。
すみません、すみません。

民法第1条第2項
『(基本原則)第1条第2項 
 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
なんか強いのか弱いのかワカラナイ身体してるのね、ナカちゃん・・・
でも、いくら大丈夫って言われても、やっぱり目の前で倒れられたら心配しちゃうわ。
サルなら倒れても、寝てるんでしょ? くらいにしか思わないでしょうけど、ナカちゃんだったら、心配するなっていうのは無理よ。

あ、条文読んでくれてありがとうね。
この信義則は、本来は債権法の原則として発展したものなんだけど、その後、物権法や家族法など、全ての権利の行使及び義務の履行に際して、適用されるべき原則と考えられるようになったもの。

でも、信義則の定義を見れば、その適用場面が増えたことにも納得できるわよね。
おーい。
ナカちゃんの心配するのはいいけど、何気にあたしをディスるのはヤメてくれないかなぁ?
あんた、昨日ナカちゃんを搬送する私の家のヘリに乗って、大はしゃぎしてたじゃないの!
よくも友達倒れてんのに、あんな態度とれるわよね!
神経疑っちゃうわ!! 
だって、あたしヘリに乗るのなんて生まれて初めてだったんだよ?
そりゃ、テンションもヘリと一緒に上がるってもんじゃないの!
そういう無神経なとこを責めてんのよ!   
ナカたんが倒れるの見んの初めてじゃなかったからね!
あたし、4月からの付き合いだってのに、既に5〜6回、ナカたんが気絶するのには遭遇してっから、もう慣れっこなんだお!
ちょっと!
だったら、昨日ナカちゃんが気絶したときに、なんであんな大騒ぎしてたのよ!  
イヤだなぁ〜。
あたし、別に騒いじゃいないよ。
ナカたんが気絶してるっていう事実を淡々と伝えただけだお?
あらそうなの?
だったら、ヘリを呼ぶっていうときに、その必要はないって教えてくれても良かったんじゃないかしら? 
生まれて初めてのヘリコに乗れる千載一遇の機会到来したんだよ!?
ぜってぇ〜言わねぇお!!
あ・・・
明智先輩、ごめんなさい・・・
私の為に、ヘリコプターまで呼んでいただいて、本当に申し訳ありませんでした・・・
ナカちゃんは悪くないんだから、謝らないでよ。
悪いのは、ナカちゃんの気絶を奇貨としてヘリに乗る気満々だったサルなんだから。 
おおぉ。
奇貨」って、そういう風に使うんだ。
光ちゃん、勉強になったよ。
おだててもダメだからね!
私ばっかり心配させて、ヘリに乗って大騒ぎしてたサル思い出したら、なんか頭にきちゃった・・・
それこそ信義則に反する行為じゃないの!

もういいっ!
サルと口論してても信義則の勉強終わらないから、先いくわよ!

信義則が、どのような場面で、どのような働きをするのか
ってことなんだけど。

大別すると3つの場面とされているわ。
@ 法律行為(特に契約)解釈の基準となる
A 社会的接触関係に立つ者の間の規範関係を具体化する
B 明文規定がない場合や、形式的な法適用によって
   不都合が生じる場合の準則となる


@については説明不要だと思うけど、AとBについては細かく見ていくわね。
明智先輩、ほんとにゴメンナサイ・・・
だから、ナカちゃんは謝らないでよ・・・
私まで悲しくなってきちゃう・・・ 
光ちゃん。
ナカたんは、あたしと光ちゃんが自分のことでケンカしてるのを見るのが辛いんだよ・・・
だから、もうケンカするのはやめなよ。
・・・あんた、ナニ目線よ、それ。
誰のせいで私が怒っていると思ってんのよ! 
光ちゃん、ケンカ両成敗っていうでしょ?
まぁ、あたしはもう光ちゃんのこと許しているんだから、光ちゃんもいつまでも、そんな顔しないでよ。
私がナニを許してもらうってのよ?
なんか全然、釈然としないんだけど・・・ 
世の中、ままならないことばかりじゃないの。
釈然としないからって、仏頂面してたら楽しくないよ?
そ、そ、そうよね・・・
ナカちゃんに悲しそうな顔させて勉強っていうのも楽しくないわよね。
じゃあ、仲直りね、サル。 
うんうん。
じゃあ、この件はコレでおしまいだね。

(ウキキっ!  コイツ、ちょれぇーっすわ!)
  ・・・・・。
それじゃ、心機一転!
ここからは、楽しくいきましょ。

A 社会的接触関係に立つ者の間の規範関係を具体化する
とは、具体的に、どういうことかを説明するわね。

まずは、「社会的接触関係」っていう言葉について説明するね。

「社会的接触関係」とは、契約関係に入ろうとする当事者、あるいは相隣関係・地役関係・夫婦関係などをいう言葉なの。
相隣関係や、地役関係については、詳しくは物権編で、夫婦関係は・・・あ、これは説明不要よね。

ここで働く信義則は、主に3つの場面が想定されるわ。
@ 契約準備・成立段階
A 契約存続段階
B 契約消滅段階

の3場面ね。

@の場面としては、契約締結上の過失債権総論にて勉強)
Aを含む@〜Bの場面としては、
         背信的悪意者排除論物権編にて勉強)
Bの場面としては、信頼関係破壊の法理債権各論にて勉強)

つまり、信義則は色々な場面で、色々な名前で表れるってことを理解して欲しいの。
  こくこく(相槌)
うーん。詳しくは、それぞれの編で勉強するとは言うものの、一つぐらいは具体的な話を交えて説明した方がいいのかしら?

じゃあ、契約締結上の過失についてだけ簡単に説明するわね。

詳しくは、債権総論で、また勉強するから、少し理解できないところあっても今はいいからね。
あぁ、そういう考え方で、信義則が働くんだぁってワカッテくれればいいわ。

契約締結上の過失とは、契約締結の段階またはその準備段階における契約締結を目指す一方当事者の過失のことで、相手方の合理的期待を裏切るような行為をしたことによって、契約締結後、あるいは契約不成立により不測の損害を被った相手方を救済するためのものなの。
  こくこく(相槌)
契約締結上の過失を認めた判例があるから、具体的な事案に即して理解してみてね。

事案を言うと・・・

独立して開業しようとしていた歯科医師の先生が、ある人の持っている建物を購入しようとして、その人と交渉に入ったの。
歯科医師の先生は、この建物は歯科医院として使用するには、電圧・電力が不足しているとか、室内の仕切りも医院として使用するには適さない等の希望を伝えてきたので、建物所有者の人は、先生の希望に沿うよう、改装工事をしたわけね。
ところが、肝心の歯科医師の先生は、工事完成の1週間後に、他にいい物件が見付かった、って言って、突然一方的に建物所有者の人との契約交渉を打ち切っちゃったのよ。
  うわ、ひど・・・
まぁ、普通そう思うわよね。

この事案に対する最高裁の判断は、次のものよ。

取引を開始し契約準備段階に入ったものは、一般市民間における関係とは異なり、信義則の支配する緊密な関係に立つのであるから、のちに契約が締結されたか否かを問わず、相互に相手方の人格、財産を害しない信義則上の義務を負うものというべきで、これに違反して相手方に損害を及ぼしたときは、契約締結に至らない場合でも契約責任としての損害賠償義務を認めるのが相当である。
(最高裁昭和59年9月18日判決)

ここで最高裁が述べている『信義則の支配する緊密な関係』というのが、さっき説明した「社会的接触関係」ということなの。
どう?
信義則の適用場面としての、社会的接触関係に立つ者の間の規範関係を具体化するっていう信義則の働きが、伝わった?

この事案では、損害賠償義務の範囲とかも問題になるんだけど、このあたりは流石に、後の債権総論で勉強するってことに今はするわね。
  裏切ってんじゃねぇよ!
ってことだね?
まぁ、それをあんたが言うの?
って思わなくもないんだけど。
ザックリ言うと、そういうことね。 
ちょっとちょっと。
仲直りしたのに蒸し返すような発言はアウアウッじゃないの?
そ、そ、そうよね。
ゴメンね。
 
まぁまぁ。

でも、信義則って言葉で言われると、なんか難しそうだけど、事案を聞いてみると、そりゃ、そうだよねって話だね。
そうよね。
だから、 B 明文規定がない場合や、形式的な法適用によって不都合が生じる場合の準則となるわけなのよ。

あ、これさっき話した信義則の機能の3つ目よ?
禁反言(キンハンゲン)とか、クリーン・ハンズの原則のことですね?
あぁ。アレね。
白・発・中と、三元牌を集めてデキル役満。大三元。
麻雀やるなら雀牌が汚れないように、ちゃんとオシボリ使って手は綺麗にしといてね、っていうクリーン・ハンズの原則だよね。
  ふ、ふ、藤先輩・・・。
あんた、絶対違うってワカッテることをどうして、そんなドヤ顔して言えるのよ!

ナカちゃんが今言ったのは、信義則から導かれる準則の名前なのよ。

禁反言は、矛盾行為禁止の原則とも呼ばれるわ。
自己の行為に矛盾した態度をとることは許されない」という考え方なの。

例えば、サルが私にお金を借りていたとして・・・。
いついつまでって期限もとっくに過ぎてしまって、結果的に時効が成立した場合を考えてみて。
時効については、総論でまた後で勉強するんだけど、時効は援用(時効が成立してるから、もう払わないよって伝えること)しないとダメなのよ。
なのに、サルは時効を援用しないで、私に対して、借りたお金を返すって言った場合には、その後になって時効を援用することは認められないよって話なのよ。
コレが、信義則、ここでは禁反言が働いた結果なの。
  なんか妙にリアル感あるなぁ・・・
よく覚えておこ・・・
  クリーン・ハンズの原則についても説明するわよ。

これは、「自ら法を尊重する者だけが、法を尊重せよ、ということができる」という信義則から導かれる準則なの。

汚れた手を持つ者は、法の助力を求めれない」、「法は不法をなす者には手を貸さない」・・・とも言うわね。

極端な例をあげちゃうと、ゴルゴ13に殺人依頼をした依頼人は、ゴルゴ13が依頼を実行しなかったとしても、その依頼料を取り返して欲しいって、裁判所に訴えることはできないって話。

人を殺して欲しいなんて依頼を、他人にお金を渡して頼むこと自体が、法の精神に反する違法なことよね。
そんな自ら法を犯した人間が、法に助けを求めることは認められないってことなの。

でも、それは当たり前のことよね。
だって、逆に裁判所が、そんな依頼人の請求を受けて、ゴルゴ13から依頼料を取り返すようなことをしたら、殺人の依頼をするような法を犯す人間を裁判所が手助けしちゃうことになっちゃうもんね。
  ・・・ゴルゴって・・・。
渋い漫画読んでんのな、光ちゃん。
私、ほとんど漫画読まないからサルの知ってそうな漫画のキャラクターが浮かばなかったのよ!

このクリーン・ハンズの原則が明確に表れている条文としては、民法第708条があるわね。
六法で、民法第708条をひいてみて。
民法第708条ですね。

『(不法原因給付)第708条 
 不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない。ただし、不法な原因が受益者についてのみ存したときは、この限りでない。
  なんか、すっごいよくワカル条文だね。成程、成程。
  禁反言、クリーン・ハンズの原則の他には、事情変更の原則という考え方もあるわ。

コレは本当に滅多に起こりえない状況でしか適用されることのない考え方なんだけど・・・。

事情変更の原則とは、契約締結当時の社会事情や、契約成立の基盤となった事情に、その後著しい変動を生じ、契約をそのまま履行させることが、信義則に反するに至ったときは、不利益を受ける側は、契約内容の破棄・変更を請求することができる、という考え方よ。

「社会事情等の著しい変動」があったときに用いられる準則だから、滅多に起こりえないってことがワカルわよね。
  こくこく(相槌)
じゃあ、最後に、昨日勉強した権利濫用民法1条3項)と、今日勉強した信義則民法1条2項との関係について、まとめて終わりにしましょ。

この2つの原則は、それぞれ適用範囲が異なる、という考え方もあるわ。

但し、判例は、『信義則に反し、権利の濫用として許されない』といった言い回しをしていることから、両原則を一応の区別はするものの厳密には区別せず、両者は相互に関連し、あいまって私権の社会性・公共性を定めるものとして適用しているものといえるわ(適用範囲非区別説)。
・・・。

(じゃあ、同じ条文にしてまえばいんじゃね?
 ただでさえ民法条文がやたら多いってのになぁ)
じゃあ、今日はここまでにしましょ。
あ、あの・・・
昨日は、本当に申し訳ありませんでした・・・。
あ、あ、あの、それでお詫びと言っては失礼なんですが、この後お時間あれば、御一緒に駅前のケーキ屋さんで昨日のお返しをさせて欲しいのですが・・・。
  ケ、ケ、ケ・・・
ケェーーキッ!!
ダメよ、ナカちゃん。
友達だったら助け合うのは当たり前なんだから、もういつまでも頭下げないの! 
  でも・・・
でも・・・
うんうん。
でも、一緒に駅前のケーキ屋さん行くってのは大賛成っ!
私も、この大学院来てから、アソコのお店は気になっていたのよね。
今日、紹介できなかった判例も幾つかあるし、判例の話しながら美味しいケーキを頂きましょ。 
  明智先輩・・・。
(んみゅ?
 なんか割り勘的な流れになってね?
 せっかくのタダケーキの話が、台無しになってね?)
ナニ、ほけぇーっとしてんのよ?
サルも一緒に来るんでしょ?
 
モチロンだお!
せっかく』の『ナカたんの厚意』なんだから『むげにしちゃいけない』よね!
ナカたん!
あたしは、ナカたんの『気持ち』を、ありがたく受け取りたいお!
  あ・・・はい・・・
あんたは昨日ヘリに乗って喜んでいただけじゃないの。
その上、年下のナカちゃんにタカるってどういう神経してんのよ・・・  
違うよ、光ちゃん!
あたしが嬉しいのは、ナカたんの気持ちなんだお!
ね? ナカたん?
だったら気持ちだけ貰って、ケーキ代は自分で出しなさいよ! 
ウキ。
気持ちは形にしないと、相手に伝わらないんだお。
そうだよね? ナカたん?
  は、はい・・・
私には、あんたがナカちゃんにタカっているだけにしか、どうしても見えないんだけど!! 
レーシック手術受けてきたら、いんじゃね?
  そんな話してないわよ!
わかってるくせに茶化さないでよね!
  ・・・・・・・・。

(ま、ま、またケンカされてる・・・)

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